學志館

2022.09.13

『ルポ 誰が国語力を殺すのか』石井光太著 鳥井実氏書評

教育

以下の文章は、都麦出版社長の鳥居実氏の書評の引用です。
国語教育の必然性をある危機感の元に取り上げています。
學志館でも国語教育については、学力向上の第一前提として取り上げています。是非お子様の教育について掘り下げて考えようとされている方はご一読ください。

先日『ごんぎつね』の話を書きましたが,今回はそれに関連しての文章です。なお,この文章は『ルポ 誰が国語力を殺すのか』石井光太著〈文芸春秋〉の本に基づいて書いています。氏は,国内外の貧困,災害,事件などをテーマに,取材・執筆活動を行っています。氏によると,ごく普通の公立中学校の教室では,次のような会話は日常的に行われているとのことです。

男子A「あのゲーム,くそヤバかったっしょ」
男子B「ああ,エグかった」
男子C「ってか,おまえ台パン(ゲーム機の台を興奮して叩くこと)しすぎ」
男子A「あれ,まじヤバかったよね。店員ガン見だから」
男子B「くそウザ」
男子C「つーか,おまえがウザ」
男子B「は,死ねよ」
男子C「おまえが死ね」

この会話を知ると,最近の子どもたちの語彙数が極端に減っているのではないかと危惧されます。そして,安易に「ウザ」とか「死ね」とか,相手を傷つける言葉が使われるため,人間関係において誤解が生まれ,トラブルに発展するケースも多いのではないかと懸念されます。最近,このような言葉使いをする子どもが増えているのでしょうか。もし,この子どもたちが相手を思いやる気持ちや,豊かな語彙数をもっているグループなら,まったく同じ会話をしたとしても,次のような言葉で語ることでしょう。

男子D「あのゲーム,すごく展開が早くて,やっていてのめり込んじゃったね」
男子E「うん。僕は映像がすごくかっこいいと思った」
男子F「E君,夢中になって興奮して台を叩いていなかった?」
男子D「店員さん見てたよね」
男子E「お店の人や,周りの人に悪いことしたなぁ」
男子F「これから気をつけた方がいいよね」

このような会話なら,感情や事象を的確な言葉に置き換え,物事を正確に把握しているので,無意味な誤解から衝突が生まれるようなことにはならないでしょう。また氏は取材を通じてこんなケースにも遭遇したとのことです。ある子どもが母親にこう言われました。

「ゲームばかりしていると,お父さんに怒られるよ。まぁ,今日はいいか。勉強もしたしね。」

その言葉を母親が発した直後,子どもは激怒して,母親に激しい暴力をふるったそうです。

皆さんは,この会話文を読んで,なぜそんな事態になったのか,想像がつきますか。

原因は,子どもが「勉強もしたしね」の語尾の「しね」だけ聞き取り,「死ね」と言われたと勘違いしたからです。これは極端な例かもしれませんが,最近の子どもの中には,文章を一つのまとまりとして捉えられず,部分的な単語しか読み取れない子も増えているようです。その原因の一つにゲームやショートメールの影響もあるかもしれません。それらの中で使われる言葉は短文ばかりで構成されています。そのため最近の子どもたちは,情緒溢れる文章に触れる機会が少ないことでしょう。例えば,語彙数の少ない子どもが今まで体験したこともないような美しい夕日や,セミの鳴く情景を見たとします。その場合にその子どもが発する言葉は「うわっ,ヤバ。エグ」ぐらいかもしれません。一方,たくさんの本を読み,日常的に親との豊かな会話を積んでいる,語彙数の多い子どもなら,その情景を次のように表現するかもしれません。

「山影に沈んでいく夕日を,セミたちも名残惜しそうに見つめているね。彼らはあと何度この夕景色を見られることだろう。」

氏は前掲した本の中で,最近の学校の様子,ネットいじめ,不登校,ゲーム世界,非行少年などの問題を詳しく分析し,解説しています。国語力とは物事を知覚し,論理的に思考し,的確に表現できる力です。今の子どもたちには,語彙力が不足して国語力が極端に弱いグループが存在し,「国語力のカースト」のようなものができあがっているのかもしれません。そして,そのようなものが根底となって,非行,不登校,いじめなどの問題が生み出されているのかもしれません。

以上のようなことに関心のある方は,ぜひ前掲の本をご一読されたらいかがでしょうか。

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